tomato11032の日記

たまに書く日記です


たまには思い出話を。





バレンタインの日にデートをすることになった。

突然会うことになり何も用意してなかった私は、適当にコンビニで買った。

買ったはいいけど、きちんと渡せるだろうか。

そんなに親しくないし、でも仲良くしたいし…。




相手は今日がバレンタインだと気付いているんだろうか。

どうなんだろう。

緊張した。




車で家まで迎えに来てくれた。

見慣れない家並みに、異様に遅く走っているライトが見えた。

道路に出て手を振った。

「似た感じの家がたくさんあるから見つけにくいね」

住宅地の中に私の家があった。

「慣れると大丈夫ですよ」

そう言ってみた。

チョコの袋の上にカバンを置き、気付かれないように隠した。




「何食べようか」

車を運転しながら彼が聞いた。

「何がいいですかね」

「ノープランで来たからさ」

「いいですね」

きっちり決まったプランよりも、二人で話し合って決める方が好き。




車を走らせ、看板を見ながら連想ゲームのように店を言っていく。

結果、パスタを食べることに決めた。






店に着くと、”火曜定休”の文字が看板に書いてあった。

今日は火曜日。

でも店内は明かりがついている。

「貸切ですかね?」

そう言うと彼は店に入り聞いていた。

「今日って開いてますか?」

「今日はバレンタインなので特別に開けてるんです」

店員さんはそう言った。



男女二人で入ると、何やら笑顔で迎えてくれた。

カップルじゃないから!勘違いしないで!”

そう心の中で叫んだ。





ナイスな開店なのか、気付かれないままが良かったのか。半々だった。

「今日ってバレンタインだったんだ」

やはり、彼は今日がその日だったと気付かなかったようだった。

その日に誘われてOKを出した私は、彼にどう映ったんだろう。

向かい合わせに座るのが気恥ずかしかった。





彼とは10年振りに会った。

昔、お世話になった人だ。

近づきたかったけど、なんとなく距離を置いたままだった。



「まだ地元にいる?」

彼から聞かれた。

「はい、まだいますよ」

「それなら今度、ご飯食べよう」


仕事で私の近くまで来るみたいで、そのついでに昔話でも、という感じだった。



突然の連絡に軽くパニックになった。

嬉しいし、でも突然で戸惑った。


昔のままなんだろうか。



向かいに座っている彼は、少し歳を取ったように見えた。

でも、あまり変わらない。


少し寂しそうに携帯を見ながらタバコを吸う姿は、横目で見た当時と変わらなかった。


私は、彼にどう見えているんだろう。

10年も経てば、おばさんになってるもんな。

私もそろそろ30だもんな…。

と、考えていた。




メニューを開き、何を頼もうか悩んだ。


パスタだけにするか、サラダ、デザート付きにしようか。

デザートの欄にティラミスがあった。

大好きなティラミスを食べたいけど、パスタでお腹いっぱいになったらどうしよう。




すると彼がポツリと言った。

「デザートがあるよ」

「ありますね。頼むんですか?」

「最近、デザートが好きになってきてさ。頼もうかな。何か食べたいのある?」

「え!じゃあティラミスを」



デザートが好きなんて意外だった。

「歳を食ったのか、食が変わってきたんだ。昔はメニューも見なかったのに」

言われてみればそうだ。昔はそんな甘い話を聞いたことがない。




パスタが来て、昔話や今の仕事の話などをした。

久しぶりに会って、ぎこちない感じもあったけど、当時のままに冗談を言い合いながらご飯を食べた。





パスタを食べ終え、デザートを店員さんが持ってきた。



「デザートを頼んだお客さま」

二人で顔を上げ、一瞬目が合った。

「はい」

私は手を挙げた。



「どうぞ」

と私の前にティラミスが来た。


大きな皿に果物と一緒に盛り付けされたティラミス。

小さなものを想像していた私は嬉しさで声を上げた。


「もっと小さいものだと思ってました」

「ね」

彼もそう思っていたようで、さっきの目が合った瞬間も思い出し、嬉しかった。

ティラミスが本当においしく感じた。


実際、既製品より味が一味違っていて美味しかった。


一口だけ食べて、彼に渡した。



「これ以上食べたら太るので私はもういいです。どうぞ食べて下さい」

「何だよ、それ」


そう言いながらも彼もおいしそうに食べていた。









ご飯を食べ、さぁ帰ろう、というときに袋を差し出した。



相手は今日がバレンタインだとすっかり忘れている様子だった。


不意に渡されたもんだから「なんで?なんで?」と戸惑っていた。


誕生日でもなく、記念日と呼ぶものもない間柄。


私は「いいですから、どうぞ。どうぞ!受け取って下さい」と袋を相手の体に押し付けた。


照れくさくて「今日はバレンタインですから」と、その一言が言えなかった。


相手はしつこく体に押し付けられて思い出したようだった。



「あぁ、今日バレンタインかー。ありがと」



嬉しそうに微笑んでいた。




それを見て、照れくささと嬉しさで私も笑った。